最高裁判所第一小法廷 平成10年(行ツ)110号 判決 1998年10月08日
東京都台東区上野三丁目一三番九号
(送達場所 東京都江東区亀戸一丁目三九番一号 ハピーハイツ八〇四)
上告人
有限会社 宝洋
右代表者代表取締役
大林幹雄
東京都台東区東上野五丁目五番一五号
被上告人
東京上野税務署長 北村千秋
右当事者間の東京高等裁判所平成九年(行コ)第五二号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成九年一二月二五日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由書記載の上告理由について
所論の点に関する原審の措置及び認定判断は、記録及び原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
上告人の上告理由書(追加)記載の上告理由について
記録に照らせば、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)
(平成一〇年(行ツ)第一一〇号 上告人 有限会社宝洋)
上告人の上告理由
○ 上告理由書記載の上告理由
本件控訴審の判決であるが、一審判決をそのまま引用する簡易な書き方でも明らかな様に、全く審理を尽くさず、控訴審の機能である控訴人(原告、上告人)の申立の十分なる吟味と審理を放棄した内容になっている。
つまり、以下に述べる様に、控訴審には判決に影響を及ぼすこと明らかな審理不尽等の法令違反(新民事訴訟法附則第二〇条、旧民事訴訟法第三九四条)と理由不備(旧民事訴訟法第三九五条一項六号)の違法がある。
一、先ず、本件の争点であるが、上告人(控訴人)が、モトイ興産所有の本件ビルから立退く際に、その立退き交渉に関する仲介手数料を吉川勝之(有限会社大森ビル管理サービスの代表取締役)に支払うことを約してそれを支払ったか否かに尽き、従って、本件についてはその事実の有無が一番大切なことであったからその経緯について当事者の控訴人(上告人)の代表取締役大林幹雄や右吉川を証人尋問するは勿論のこと、それだけではなく、その証言の信憑性や事実の確定のために吉川らと交渉に当たったモトイ興産の取締役である上杉正俊や、吉川と行動を共にしていた相原和夫という第三者証言をも得て、十分に事実の有無を審理して吟味すべきである。
ところが、控訴審は、控訴人(上告人)が右上杉正俊と相原和夫を証人申請しその証人尋問の必要性を強く主張したにも拘らず全て採用を却下し、全く審理をせずに一回の口頭弁論で結審したものであった。
しかも、控訴審判決がその全てを引用する一審判決にすれば、右立退に関する仲介手数料について、証拠と審理不十分のまま次のように判示する。すなわち、「ところで、吉川は、大森ビル管理がかつて本件建物の管理をしていたことから、大林と面識があり、そのいきさつは定かでないものの、調停申立て前に上杉と原告(上告人)との間で行われていた立退き交渉に関わるようになったが、」「いずれにせよ、モトイ興産と原告との立退き交渉はまとまらず、本件調停が申し立てられたものであり、その後は、専ら國吉弁護士と大林との間で話合いが進められ、その間、吉川は一切これに関与しておらず、調停の期日や期日外でその交渉にあたったということも全くなかった。」(一七頁~一八頁)とした上、第一審での吉川の証言について、「証人吉川は、大林が(仲介手数料として)平成元年四月二〇日に現金で二〇〇〇万円を支払い相原がこれを受け取った旨証言するが、同証人は、他方において大蔵事務次官の事情聴取の際に原告から二〇〇〇万円を受領していない旨答えたことは間違いないと証言するほか、右二〇〇〇万円の趣旨についても、ときわの運転資金としてもらったものであるとか、返済すべきものかどうかわからないと証言するなど、二〇〇〇万円の授受についての証言内容は、極めて曖昧で一貫性に欠け、前後矛盾したものとなっており、到底信用することが出来ない。なお、甲第二号証(吉川作成の念書)には、吉川が平成元年四月二〇日に本件手数料として二〇〇〇万円を受領した旨の記載があるが、吉川は、本法廷における証人尋問において、右甲第二号証の記載内容が真実かどうかについては答えられない旨述べており、他方、成立に争いのない乙第一五号証によれば、吉川は、平成八年二月七日、大蔵事務官の事情聴取に対し、本件手数料二〇〇〇万円を原告から受領したことはなく、詳しくはいえないが、男の約束があったため、大林の要請に基づいて念書(甲第二号証)を書かざるを得なかった旨供述していることが認められるのであって、甲第二号証の記載もにわかに信用することができず、これをもって原告の主張を裏付ける資料とすることはできない。」(二三頁~二四頁)と吉川証言の曖昧さを指摘、つまり事実の有無を確定できる第三者的証拠を否定しておきながら、不可解にも結局、原告(控訴人、上告人)は吉川、あるいは有限会社大森ビル管理サービスに対し、立退に関する仲介手数料を支払う約束はしていなかったと結論付ける。
然し、右判示の表現に吐露されている様に、第一審においても控訴審においても、調停前の大林と吉川の立退に関する約束の内容や吉川自身が具体的に立退についてどの様な仕事をしたのか等について事実が煮詰まっていない上、吉川証言と同人の税務職員に対する「申し述べ書」(乙第三号証)とは互いに内容が矛盾することからいずれが事実を反映するものなのか決めかねる状況にあったことが判る。
その様に未だ審理不十分であったにも拘らず、裁判所は、右「申し述べ書」の方がなぜ事実を反映しているのかの合理的な説明もなく、吉川証言の方だけを信用できないものとして「申し述べ書」を事実認定に採用しているのである。
本来、重要な事実の有無が問題になっていて、そのいずれにも決し難い場合には、それ以外の証言を求めて真実を追求すべきであり、その当然のことをまさしく上告人は一審及び控訴審においても主張し、本件事情を知悉していた上杉正俊と相原和夫の証人採用を強く懇願したのであったが裁判所は裁判所としてとるべき証拠法則と経験則に反して不採用とし、あわてた様にして結審して判決をしてしまったものであった。それは審理不尽の一語につき、国民の裁判を受ける権利(憲法第三二条)をも骨抜きにするものである。
二、次に、本件における上杉正俊と相原和夫の証人採用の重要性を更に具体的に述べ、いかに、控訴審は勿論一審においても審理不尽であったか、控訴審判決がいかに理由不備であるかを述べる。
すなわち、本件ビル所有者であるモトイ興産株式会社では、本件ビル占有者との明渡し交渉を取締役上杉が直接担当していたところ、上杉はさらに上告人の占用する一階部分については、管理会社である有限会社大森ビル管理サービスの吉川に上告人との明渡し交渉を委かせ、そして上告人と吉川との間では、上告人が立退料として六〇〇〇万円を受け取れればよく、これを超える部分は仲に立つ吉川に支払うとの約束が出来ていた。この支払いは上杉が上告人に対し頼んだものであり、従って、上杉はこの経緯をよく知っているものである。
又、相原和夫は、吉川と行動を共にしていたもので、大林が本件二〇〇〇万円を渡す際にも吉川と同席していたものであるから、本件経緯やなぜ「ときわ名義」の領収証を出す様になったかということについてもよく知っているものである。
この上杉と相原という二人の証人尋問をすることによって、本件の正しい事実関係が確定出来、むしろ、この二人の証人尋問を経なければ真実が判明しないのに、原審は裁判所としてやるべき当然の審理を尽くさなかったものである。この二人の証人尋問を実施すれば原審判断が否定される可能性が極めて大である。
三、又、税務訴訟において、納税者側が本件の様な更正処分の違法性を主張した場合には、更正処分をした行政庁がその更正処分の適法性を積極的に主張し、かつ、立証する責任がある。
これを本件について見ると、吉川の税務職員に対する「申し述べ書」(乙第三号証)なる書面があるものの、同人の証言とその信用性を比較した場合同人の証言は反対尋問を経ているのに対し、右書面は反対尋問を得ることの出来ない、つまり反対尋問の出来ない伝聞のものであって、その信用性は極めて低いものである。従って、同人の証言の内容が右書面の記載と違うからと言って、だから書面の内容の方が正しいという理屈にはならないのである。ところが、原審が全面的に引用する一審判決の内容は、上杉や相原を証人尋問することによってそのいずれが正しいのかという審理もせずに、矛盾するから吉川証言は信用できないとして信用性の低い伝聞の「申し述べ書」を正しいとするのである。
それは、何故に信用性の低い伝聞証拠の方を信用するのかという基本的な理由付けもなされていなく、そもそも積極的にその適法性を立証しなければならないはずの税務訴訟のあり方をも曲げるものである。
つまり、国側が本件更正処分の適法性を積極的に主張・立証しなければ、そもそも適法な処分とはならないはずであり、本件も吉川の証言が信用できないとなると上告人が立退きの仲介手数料を吉川に渡したか否かが不明と言うことになって一方に確定出来ない話になるはずである。つまり、裁判所も本件更正処分がはたして正しいのか否か確定できないはずのものである。
それにも拘らず、控訴審や一審は本件更正処分は適法だとするものであって、その理由が不備というか、確定すべき証拠がないことから理由付けがなされていないに等しい。
四、従って、控訴審判決には、審理不尽と理由不備の違法があると共に、上告人の裁判を受ける権利をも侵害しているものである。
以上
○ 上告理由書(追加)記載の上告理由
上告人は、上告の理由として、左記の様に、控訴審判決には「法律に依り判決に関与することを得ざる裁判官が判決に関与した」ものであるから、民事訴訟法第三九五条一項二号により破棄されるべきである。
一、上告人が既に上告理由書を提出し、しかも、上告訴訟記録到着通知も受領した(四月二二日)後の平成一〇年六月一七日頃になって、突然、東京高等裁判所第一六民事部の書記官から控訴審判決の作成に関与してはいけない裁判官が関与している旨の連絡を受け、そうこうしているうちに、一方的に別添の「事務連絡」と「上告提起通知書」、「判決」を送付してきた。
二、判決と言うのは本来厳格であるべきだし、判決書の中に名前が出ている裁判官(佐藤久夫)が判決原本の作成に関与したことは表記上も明らかなことである。
正に判決とは、その判決文によって言い渡されたものであって、その言い渡された判決文に表記されている裁判官が判決原本の作成そのものであるはずである。
更に、右判決は当事者に送達もされ、それに対し既に上告状を提出し、上告理由まで提出しているのである。
かかる状況のとき、単に内部的な間違いだったとして、裁判官の名前だけを取り替え、しかも、瑕疵ある手続を糊塗するかの様に「上告提起通知書」なるものを再度発送してくるなどは到底許されるはずのものでない。
三、仮に、一旦外部に表明された判決が、かかる一片の手続書で糊塗されるとしたら、逆に、通常は上告理由書の提出期限まで定めて国民に厳しさを求めているのに、裁判所はいつでも瑕疵を元に戻すことになり、その甘さは許されるべきものではない。そのために民事訴訟法第三九五条があると考えられ、自ら厳しく襟を正すために破棄すべきである。
以上